「日常の朝」

先日の朝、出張のため徒歩で京橋駅まで向かいました。
 初夏の気配が目前に迫った朝は、空気に張りがあり、下町にも澄んだ青い空を提供していました。
 余裕を持って家を出た私は、車通りの少ない生活道路を目線を泳がせながら歩いていました。
 すると、道沿いの公園に、ころころに太った柴犬を散歩している老婆を見かけました。
 でっぷりとした柴犬は、う○ちをしていたらしく、老婆は大儀そうに腰を折り、スコップでそれを掬い取りました。
 そして、老婆はう○ちの乗ったスコップを右手に持ったまま、左肩にかけた鞄をはずそうとするのですが、うまくいきません。
 おそらく鞄の中にう○ちを入れるビニール袋でも入っているのでしょう。スコップを左手に持ち換えればいいのにと思いましたが、老婆はそれに気づく様子がありません。
 私は歩く速度を緩め、どうするのかなと思って見ていました。すると老婆は、おもむろにう○ちを、スコップから犬の腰の上に移しました。
 そしてスコップも、裏返しにして、器用に犬の背中に乗せました。
 満足した老婆は、自由になった右手で肩から提げた鞄の中をまさぐり始めました。
 おそらく、地面に置くと、再度腰を曲げなければならないことが嫌だったのでしょう。
 腰の上に生暖かい物体を置かれた柴犬は、僅かに違和感を感じたのか、ゆっくりと顔を上げました。
 私と目があってしまいました。
 気の弱い私は、何事もなかったふうを装い、柴犬の視線をはずしました。
 せめて、スコップに乗せたまま、犬の背中においてやればいいのにと思いました。